恋する季節 4

 口腔も膣も塞がれて快楽のはけ口を失った稲垣は、すごい力で僕を抱き締めた。中に圧力が加わって僕の性器を締めあげる。感度は極まり、中の様子が手に取るようにわかる。むき出しのそれを包み込み、無数の触手で撫でもみほぐすのだ。ああ、たまらない、気持ちいいのは男も女も一緒だ。手っ取り早く最高峰までつきあげるべく僕は片足を狭い空間の向こう側の壁に押し付け、両手で彼女の腰をぐっと押し付けた。
「くっ」
稲垣の声が漏れたような気がした。奥の子宮の手前にひっかかった先をくにゅるにゅさせるとすぐに僕もいきそうだ。何度かかき回し急激に沸点に達するように全身熱に支配されると、頭の中でそこめがけて放出した。突き刺すような、足の先からけいれんしたような感に襲われ、絶頂に達した稲垣の顔が歪んだ。やっと解放された口ではあはあと、苦しそうに肩を上下させている。僕も乱れた呼吸を整えながらそばのケースに積んであるタオルに手を伸ばした。
「いや、まだ抜かないで」
「あん?」
「もっと、したい」
はあ? 僕は、呆れ顔になる。
「オレ、勤務中なんだよ。タバコ吸うって出てきてるのに」
「外に買いに行ったってことにすればいいじゃない」
「アホか。ここ何階だと思ってるんだ? も、終わりね。あ、タバコ持って来いよな」
「だめよぉ、そのつもりで来てるのに」
「知らねーよ、メール見てないもん」
「ね、抜かないで、お願い」
稲垣はいつにも増してやる気満々ぽい。
「勘弁してくれよ。オレもう出ねーよ。あとは男とやれよ」
「田舎帰っちゃったもん」
「え? 別れたのか」
「ち・がーうの。結婚決まったから、田舎帰って準備とか色々あるでしょ」
「あ、そ。それはおめでと」
「も、だからチャンスなの。もっとしようよ」
チャンスっておい。
「オレはタバコ吸いに……」
僕が言いかけると稲垣は顔を寄せ真剣な表情で言った。
「じゃあ、今晩は? ダメ?」
「いや。空いてるけど」
「付き合って。お願い。あたしホント気分なの」
僕はため息をついた。やれやれ……。
「ならウチ来いよ。後でまた連絡するから」
「ホント? いいの? 部屋に行っちゃって。彼女は?」
「別れた」
「えっ、もう? はっやーい」
稲垣の顔が明るくなり、僕の肩に回していた腕の力を緩めた。そっと体を離す。僕は手際よくタオルを添えてペニスを抜くと精液やら愛液やらを吸わせ、ぬるぬるのそれと彼女の股間を軽く押えてささっと後始末をした。手軽にできるのはいいけど痕跡が残っていたらこの上なく間抜けである。用済タオルを隅のダストボックスにポンと投げ捨てる。我ながら慣れてるなあ。何度目だろうか? ここのタオル、こういう用途以外で使われることはまずないだろうな。
「なんかこのところサイクル早いね。清水さんの時はさすがにいっちゃったかって思ったけど」
「あいつのことは言うなっ。今は誰もいないよ」
「えへへ、じゃ、彼女に遠慮しなくてもいいんだ?」
「ん。ていうか、別に彼女ってほどじゃなかったんだけど」
「でも付き合ってたじゃん」
「会って食事しただけだよ」
「何回か、でしょ?」
「んー」
「も、それってデートじゃん」
「そうかあ?」
稲垣はすっかり気分上々だ。僕がタバコを吸おうとすると再び体をくっつけ、僕の眼鏡を外して言った。
「うふん、キレイな顔」
ヌードな唇からエロチックに舌を出してキスをする。そしてさっきのお返しとばかりに激しく吸い付いた。

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