恋する季節 38

 ああ、警告。眼鏡を外したな。
 僕はちらっとドア見て鍵がかかってるのを確認すると、息の荒めな彼女に顔を近づけた。少し微笑んでみる。
「ふふ。何してもらいたい?」
何もいえない彼女。僕を見つめたままだ。「なぁ?」僕はじっと目を捉え、さっきの左手で彼女の右足首を掴んだ。
「あ……、うっ」
がくんと首がもたれて、彼女は僕に手を回そうとした。僕はそれを避けるように上体を少し起こした。彼女の足が持ち上がる。中途半端に吊り上げられてる脚の、足首からふくらはぎの裏側へゆっくり手を動かしてみる。
「いやぁん、だめ」
恥ずかしそうに目を閉じ僕をなじる。構うもんかと、ストッキングの繊維に沿って手の平は徐々に上へ……。「はあぁっ……」大きな吐息が漏れる。触ってるのはそこだけなのに、明らかに敏感になってる。開いた股間も。「ああ、ああ……」開いた目が虚ろだ。
 僕はくすくす笑った。
 ……このストッキング。オーソドックスなこれもいいけど、網網のバラ柄なんかだともっといい感じなのにな。
「い、や……。笑っちゃっ」
形勢逆転かな? 彼女の言葉うまくつながらない。
「……お前、眼鏡外したな、オレの」
もう一度、手をついて顔を近づける。黒い髪の束がだらんと垂れ下がり、僕の視界を邪魔する。
『見えてるんでしょ?』
そうだなあ、オレの眼鏡……。確かに度が入ってないに等しい。だが、決して『飾り』なんかではない。『隠してる』わけでもない。……あえて言えば『防護』かもしれないな。
 更に、僕が髪を染めない理由。……85%くらい潔癖症ゆえの敏感性からだが、残りの15%、それはーーーー、





『わざわざ染める必要がない』からだ。





 『フフン』と僕は首を曲げ、彼女の耳のすぐ後ろに舌をつけた。
「ひっ」
びくっと体が動く。びくびくきてるのがわかる。「ああ……、ああ……」ゆっくり、ゆっくり、舌先を滑らせる。「あああん、響介っ」
キスなんて。何も唇にしなくても他に感じる箇所はたくさんあるのだ。
 脚のポイントだって。オレは裏っ側をすりすりしてるだけだぜ?

 ……そう。世のもてない君達。イカせられないと悩む前にセンスを磨け。大抵の場合これだけで何とかなる。万が一ダメならプチ整形でもするんだな(……この人性格悪い?)。


 この丸の内に戻ってきて4年、オレは身に染みて感じたんだ。

『イキたがる女のなんと多いことか』

人を好きになって抱き合うのではなく、ドキドキするのが目的で男と付き合う。その流れなのだ、殆ど。
 稲垣だって、そうだった。
 場所もわきまえず、とにかく、『感じさせろ』とーーー。

『お前らオレをバカにすんなよ』

オレは何なんだ? ラブマシーンか? お前らの欲求のはけ口なのかよ。ふざけるなっ。


「きゃあっ」
僕は自分が興奮してしまわぬよう、彼女のはだけた胸を無視して唇をうなじに集中させた。実際、それだけで効果は絶大なのだ。口の中に髪が混じる。舌の先で鎖骨のくぼみを探る。下に行く素振りを見せ、彼女の膝の裏側に左手を止めて体を折り曲げさせる。
「ああああ、いやいや」
指を伸ばすと股のすぐ近くまで接近する。興奮した彼女は足の角度を変えた。股間が、僕のわき腹の下で露になる。
「あう、あう、あう」
「……お前さ、文句言う前にその声ダンナに聞かせてやったら?」
耳元で囁く。わざと。答えられないの知ってて、やってみる。ペロペロ再び耳の後ろを舐める。「あああんんっ」体がうねった。
「まあ、オレは(結婚の)経験ないからわかんないけどさ。家庭事情ってやつはさ」
耳に向かって喋ると息が当たって相当クルのだ。彼女ははぁはぁ喘いでいた。くるしげな魚のように口をパクパクさせてる。
 左手はももの裏側を上下してた。「はぅ……」苦しそうな表情。稲垣の場合だといつもガーターストッキングだから、ここで手が中に入ってくわけだが。
 ……用意いいよな、アイツ。オレも一応身だしなみには気をつけてる方だが。食後のケアはもちろんのこと、服は毎日取り替えてる。体も毎日隅々まで磨いてます。香水も欠かさない。……だが別に用意周到なわけではなく、単に『綺麗好き』なだけさ。
「邪魔だよな、コレ」
僕はナイロン繊維をにゅーっとつまんではじいた。感じる部位だから無論彼女の返答はない。苦笑いして爪を引っ掛け、切り口を作る……。
 プチンと、手応えがある。
「は・……」
彼女の声とともにピーーーと繊維が裂けてく。コレ。この感触。オレは別に変態じゃないが、綺麗に切れると気分がいい。包装フィルムだって何だって同じようなもんだ。
「い、や……っ」
いよいよ生の肌に指が触れ、その声が裏返る。普段の声域ではない。メスっぽい泣き声。
「うぅぅぅっ……」
だけど、僕は手の平を這わせてるだけだ。彼女は過敏になってる。裂けたストッキングを上から下へずらすだけで、快感が巡るのだ。ストッキングと肌の間で動く手の感触が心地よくてしばらくそうしてた。下着越しに性器の潤いが増してく。そして思う。これも立派な不貞行為になるんだろう……。常識的に。だが、僕の中には全然後ろめたさがなかった。
 やはりオレはそういうヤツなのか……。
「ああ、ああ、ああ」
彼女は先走っていた。既に指突っ込んでるみたいな反応だ。僕は黙って開脚した脚の付け根に両手を当てた。
「はうぅ」
バウンドする体。両手で付近を愛撫する。声がだんだん煮詰まってくように聞こえてくる。唾液が逆流してるのだ。「ぐふっ」詰まらせた、そのとき、僕は下着をめくり、指をぐさっと突き刺した。
「あああぁ」
最初乱暴に。そして、ゆるめに回転させる。指先を曲げてポイントに引っ掛ける。下着が濡れてしまうがもう遅い。足がバタバタもがく。それをM字に押し曲げ、膨らんだ陰唇をなぞり、端を集中してかき回した。
「あああああんん……」
声がかすんでく。息だけになる。規則的に、どんどん激しくなる。びしょびしょ。あの匂いと、音。彼女は最後のあがき、上半身をめいっぱい伸ばした。「あ、あ、あ……」そのすぐ後に、かくかくももが震えた。一瞬息が止まり、体が硬直する。
「うう……」
僕の腹部のすぐ下の床に液がつーーと垂れていた。
「ふーーう」
興奮し空気が熱い。
 僕は背筋を正した。

『一丁上がりーーーー』

何だかいつもと一緒?
 いや、『やってないだけ』大人だと思ってよ。僕の下半身も危なくないと言えば嘘になるが……。

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