恋する季節 32

 入れてしまえばこっちのものだ。
「いやん、うう」
と言いつつ僕の腕の中で稲垣の様子は見る見る変わっていき、はあはあ悶えながら僕の眼鏡を外した。一緒に、前髪もはらりと落ちる。
「ああう、この顔、すき……」
「オレの顔目当てなのかお前は」
僕が責めると稲垣は首を振って答える。
「……えっちもね」
「ばか、やな女」
僕は更に力を込める。ぎゅっぎゅっと濡れ濡れの管を小気味よく滑って……。
「あ、あ、あーーーーん」
彼女は頂点に達した。頭のてっぺんをベッドにつけてぎこぎこさせる。
「……はあっ、はあ、はあ」
べたっと身を沈め、息を切らす。同時に出した僕もしばらく同じようにし、少し落ち着くと彼女はまっすぐ僕を見て再び抱きしめた。
「すきなのよ。わかってるくせに……」
声は上ずって色っぽかった。
「ん」
「あんただって……、あたしの顔とか、『えっち』目当てなところあるでしょ」
「そりゃ多少はさ」
「同じじゃないの」
「でもオレがさっきの男みたいな顔だったらどうしてた?」
って小学生みたいな質問するオレ。
「そんなのキョースケじゃないじゃない」
「でも中身はオレだぜ」
「違うわよ。中身も見た目も声もえっちも、ぜーーんぶひっくるめてキョースケなの。どれかひとつ違ってるなんてありえないわ」
少し大きな声で言うと、彼女は笑った。僕もつられて微笑んで彼女にキスした。やわらかい唇。触れた瞬間に胸にきゅっと何かが走る。彼女は舌を絡めてきた。すぐに興奮してくる。
「はあ、はあ、ああ」
すきすきすき……。そう言ってるのが聞こえるような気がした。体でわかっていてもつい邪念に邪魔されてうまくいかなくなるのだ、この2人。果たして相性がいいのか、悪いのか、適当なのか……。
『相性いいですね、仲良くしましょう』
ナカガイチのセリフが妙に耳に残る。
 何なんだよ? 『相性』って……。
 稲垣はキスしながら僕の服を脱がしていった。じんわり汗をかいた肌を合わせ、改めて僕は彼女を抱いた。
「あ、あーーん、気持いい」
全身を絡めるともう勝手に動く。うねうねうねり、彼女は僕の頬を手で寄せると言った。
「すき」
「好きだよ」
「あいしてるわ」
「うん。愛してる」
彼女の後に続いて僕が言うと、彼女はぷっと吹き出した。
「もう、ホント? 誰にでも言ってるくせに」
「言ってないよ」
「言ってるわよ。わかるもん」
「言ってないよ。……言ってたとしたら随分昔の話だよ」
僕は真顔になった。本当の話、愛の告白なんてガラじゃない。
「稲垣、お前さえその気なら、オレ、そのつもりで付き合うぞ」
「何よ、そのつもりって」
彼女の胸のドキドキが早くなった。
「つまり、けっこん……」
あっさり言おうとした僕の言葉を遮るように、彼女は僕の首に抱きついてきた。語尾は消されてしまい、胸の鼓動が僕のと一緒になる。
「……もう、理系なんだから。直流ね」
「そうかあ? あいつには負けるぞ。ナカガイチ……」
「やっだ、もうやめてよ、その話」
「セックスもうまそうだよな、外資系くん」
「そうかしら、そーお?」
彼女は首をかしげてちょっと考える
「……なんでそこんとこ『だけ』反応するんだよ」
僕はけげんな顔で彼女を見つめた。
「もうばか。言っただけじゃないの」
くっと笑って、「んーー」と抱きしめる。ぴりぴり電流が流れ、充満してく。この体の反応は言ってることと反比例して『早く次を』と促してるんだ。僕は彼女の胸を揉み上げた。
「ああ、ああん、うう」
そっから後はいつもと同じ(といってもマンネリと言う意味では決してなく)、乳首に吸い付いて軽くいかせると股を開いて挿入……。
「はあっ……」
そのときの彼女の顔を見るのが好きだ。苦しそうな嬉しそうな、何ともいえない表情、僕の目を一生懸命見つめる、大きな垂れ目……。
「かわいいな、お前」
「う、く……」
「オレ、すきだよ。でも、この金髪はキライ」
「自分が……やれって、言った……くせに……」
彼女は悶えながら僕を下目で見て言った。
「もういいんだ。もう堪能した。元に戻せよ」
「……ばか」
くっと顎をあげて目を閉じた彼女。言葉は全部喘ぎ声になってしまって、僕の動きに合わせて腰をくねくねさせる。
「金髪はもうダメ。男が寄って来るから」
ぐいぐい押し込む。ゆるゆるウェーブした金色の髪の束にそそられて、僕は2度目の射精をした。
「ああ、あああああ……」
ぐったりした体をぴったり合わせる。彼女は僕の背中を撫でて呼吸を整える。足は僕の腰に回したまま。力は入っていない。それをそろりそろり上下させ、僕はいい気分になる。いい余韻なのだ。
「汗かいてるわよ」
弱い声で彼女が呟く。ぬるぬる背中の指で汗を拭うようにして。ぞくぞくするオレの体、またまたたちそうになる。
「そっか。風呂はいろ、オレ」
何となく照れくさくなって僕は起き上がり、バスルームに向かった。


 風呂から出ると稲垣は一転、一人でカラオケを歌っていた。裸のまんま……。選曲もだが、何とも『明るい』。
「ねえねえ、一緒に歌おうよ」
体を拭き終えると、早速付き合わされる。オレが選ぶとこうはならんが(AVばっかりでよ)。仕方なくマイクを取る僕。
「……あんたってB’zうまいよねえ。よっぽど清水さんに鍛えられたのね」
「あれだけ車で聴かされりゃな、誰だって覚えるわな」
「……ねえ、今度はケミストリー覚えてよ、あたしのために。あ、平井でもいいわよ。ぐっとくるやつ」
歌いながらマイク越しに喋る稲垣。……なんとゆーか、元気な女だ。僕は苦笑い、『やれやれ』と息をついた。

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