恋する季節 31

 コンパだって!?
 ……女の子が望むコンパ相手の職業と言えば、まず医者、弁護士。更に最近ではそれらと並んで業界系と外資系。コンパの嫌いな僕でもそのくらいは理解できる。
 しかし……。
 だからといってすんなり「はい。わかりました」はないだろ、オレの目の前で。オイ!?
 しかもするする中垣内のプレゼントを開けて、「かわい〜〜じゃん」だって??
 ……確かに可愛いチョーカーだったのだ。ハートマークのちょっとロリっぽいヤツ(ハニーフラッシュ! てな感じの)。某有名ブランド品なので2万は下らないと思われる。いきなり貴金属攻めかい……。
 僕はすっかり気を落としてしまったのだった。あのあと彼女にすすめられるまま適当なラブホに入ったのだが、それについて喋る気がせず、ぼけっとしていた。何だか口に出すのもしゃくにさわる。
「もうどうしたの〜〜」
話し掛けられても答える気力なし。適当に注文したつまみを口に入れる。
「ねえ、先にお風呂入ってるわよ〜」
「ああ……」
イエスともノーともとれない気のない返事をする僕。ベッドに肩肘着いて頭を支え、テレビのチャンネルをぐるぐる回してみる。つまらん……。エロビデオも見る気にならない。
 しばらく、結構長い間ザーザとーシャワーの流れる音が聞こえていた。その音が急に大きくなって、彼女の声がした。
「ねえ、入らないの?」
「ん」
「もう出ちゃうわよ」
「めんどいよ」
僕は彼女に聞こえないくらいの声で呟いた。
「ほ〜ら〜。もお〜」
湯の音が消え、声がもっと大きくなって、ぐいっと顔を後ろへ向かされた。いやでも視界に入る彼女の胸。びしょ濡れのまま出てきてる。
「入らないの?」
もう一度僕に聞く。
「服脱ぐのめんどくさい」
僕は顔をぶんっと振った。稲垣のきょとんとした顔が視界から消える。手は僕の首に回したまんまなので、シャツが濡れてぴたっと皮膚に張り付いた。
『なんであんなこと言ったんだよ?』
そう聞きたい所だが、僕はぐっとこらえた。
「どうしたの? 怒ってるの?」
稲垣はもう一度僕の目を見て言った。
『ふてくされるぞ、あんなことされて』
心の声。叫んでる。彼女はやっぱりきょとんとして僕を見つめた。
 ……こんなことは今までになかったんだ。
 いや、これまでにも僕の付き合ってる女が前の男や外の男に言い寄られてるシーンに出くわしたことはあった。でも僕がいることに気付くと、100%退散していったのだ。
 それが普通だよな? だから今回もそのつもりでいた。なのに……。僕はうぬぼれてるのか?
「ねえ〜、どうしちゃったのよ〜、いいじゃないよぉ〜、コンパくらい」
「よくないっ」
僕は遂に正直に口を開いた。
「もぉ〜」
「もぉ、じゃないよ。何だよ、お前、オレのいる前で」
「だって〜。つい」
「ついって何だ。お前は新しい男がほしいのか」
「違うもん」
「何が違うんだよ」
「だって……。あたし前に送別会ドタキャンしちゃったから、皆にちょっと悪いなと思ってて……。それでこういう話持ちかけたら喜ぶんじゃないかなって思ったの〜〜」
何だよ、ソレ。そんなんで僕が納得する筈ない……。
「お前はなぁ……。じゃあ何でそのハートのヤツ開けて喜んだりするんだよ。むかつくぞ」
「可愛いって思ったから言っちゃっただけじゃん。いいじゃないの、チョーカーのひとつくらい」
「よくないっ」
僕は彼女の手をぐっと引っ張った。
「あん」
彼女はベッドの上に倒れた。
「もう。自分だってちょっと目を離した隙に外の女とやっちゃったりするじゃんっ」
と言われ、ほんの少し心が動く。そんなことがなきにしもあらず……だったな。(注『ビキニ』参照)
「……でもオレのは本気じゃないからな」
ちょっと言い訳する僕である。
「あたしだって別に本気じゃないもーん」
稲垣はぶーっと膨れて僕にしがみついてきた。
「すぐ怒るんだから。バカ」
「怒るのが普通だ」
「キョースケも女にもらった香水つけてるでしょ」
「あんなもの、消耗品じゃないか。……オレが買ってやるからそれ返してこいよ」
「ダメよ。もう売ってないよ。完売だもん」
……これだよ。女は限定品が好きだよな。呆れてしまいますよ。
「お前このままコンパしてさ、アイツに迫られたらどうするつもり?」
「大丈夫よぉ。それよりも外の子に気が移っちゃうかもしれないじゃん」
む〜〜。何が何でもやるつもりなんだな。僕は本気でかっとなってしまった。この時点でいい加減僕の服も濡れてしまっていた。
「ま、お前が浮気したらオレもしよーっと」
子供っぽいこと言って僕は彼女にキスをした。稲垣は「バカ」と言って舌を絡めてきた。ぐぐっとネクタイを引っ張る。結び目に指を入れて起用にほどくと僕のシャツのボタンを外した。
「子供みたい」
「ああ、オレは子供です」
僕は彼女がボタンを全部外しきらないうちに彼女の体を押さえ、まだ感じていない股間を開いて無理やりはじめた。
「きゃあ、痛い、痛いよぉ」
彼女は顔を歪めた。腰を抱え込むと「ん……」と声を漏らし、僕にしがみつく。「あ、ん、あ……」揺れるリズムに合わせて口を開く。
「男ってバカ。勝手なことばっか言って……」
「あてつけなんだ? オレへの」
「やるだけやっといて……。あたしはコンパだけでもダメなの?」
言葉とは裏腹に中はだんだん濡れてきてる。僕は奥のひっかかりをつんつん連続して突いた。
「あーーーん」
彼女はのけぞって叫んだ。
「あん、あん、あん、ばかぁ……」

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