恋する季節 19

 それは今まで嗅いだことのない甘い香りだった。ホテルのオリジナルローションらしいが 体を拭いた後も匂いは立ち篭め、部屋の雰囲気と僕の神経をゆるやかにした。服は乾いていたが二人とも置いてあったバスローブを羽織る。頼んでいた食事は受 け取り口みたいなボックスに届いていて僕はそれをベッド脇のテーブルに運んだ。
「おいしそー。いただきまーす」
稲垣はクラブサンドを手にとってかぶりついた。僕は巨峰の添えられた生ハムにフォークを刺した。
「やだ、エロゲームしてたの?」
静止した恥ずかしいシーンを見て稲垣が言った。
「けーべつー……」
「まともなのないじゃん」
「あるよー。フロントで貸し出ししてるって言ってなかった?」
「そーか?」
「借りようよ」
稲垣はピッとDVDの一覧を出して一つ選ぶと送信した。そしてまたパンを頬張る。しばらくしてそれが届き、ソフトを入れ替え再生する。僕は最初の10分程 度の宣伝部分でステーキとハムを食べ終えてしまい、よっこらしょっとベッドに片ひじをついて頭を支え横になった。始まったのはチャーリーズエンジェル。ど ういう選択なんだか……。まあ部屋のムードにはマッチしているか。東洋系一人と金髪二人の組み合わせってのは面白いな、タイプじゃないけど……。そのうち の金髪一人が鏡の前でポーズがてらTシャツとショーツ姿で踊ってるシーンの所で何となく僕は言った。
「いいなアレ。お前も今度金髪にしてみろよ」
「えー? やーだー、叱られない?」
「染めてるヤツいただろ」
「いたっけ? 若い子じゃない?」
「禁止じゃなかった筈だよ。スタイルは負けてないだろ。や、むしろ勝ってるよ」
「もぉ、やあね」
稲垣はベッドにポンと乗って僕の頭に抱きついた。
「ねえ、ブドウ食べないの?」
僕の皿にはブドウだけが転がってる。
「ああ。食っていいよ」
「ん」
稲垣はブドウをフォークに刺すと僕の目の前にかざした。
「何? オレ、甘いもん嫌いなんだよ」
「えへへ〜、食べさせて」
「あ?」
「種抜いて食べさせて」
口移しせいっつーことか。さてはインテリアに影響されたな。ホント女は環境で変わるなあ……。
「かせ」
僕はフォークを掴んでパクッと実を口に入れるとコロコロ転がして舌の先で種をすくってぺっと出した。「ん」と顔を彼女に向ける。そぉっとお互い角度をつけて接近し、唇が触れた瞬間ブドウを押し出して彼女の口へ入れた。
「んーー」
舌が絡まる。ぐちゅぐちゅつつかれてブドウはつぶれていき、みずみずしい果汁が口から溢れて伝った。わずかな残骸はお互いの口を行き来した後ゴクという生 唾の音とともに彼女の咽に吸い込まれていった。唇は密着したまま、ブドウの甘味の残った唾を吸いあい、勢いがついたところで僕は彼女を倒して上にまたがっ た。
「あん」
舌を尖らせて再び口の中の甘味を吸い取ろうとした。その間に手はローブの結び目を解き、肩から一気に脱がせる。キスだけで興奮してきた彼女のあそこは湿っていて、指でくちゅくちゅやるとすぐにいきそうになった。
「あ、はあん……」
いきかけたところですかさず股を持ち上げて深く挿入した。上下に摩擦運動を繰り返し、回転させる。「ああ、うう」という喘ぎ声とびちゃびちゃという音がテ レビの音声を聞こえなくする。足を交差させると脳天が突き抜けるくらい締め付けられる。この収縮の具合が最高で挿入だけの時とは比べ物にならないのだ。 「あぐっ」半開きの稲垣の口から唾液が散り、最後ぎゅーっと締まるタイミングに合わせてぐっと突き上げた。
「ああ……ん」
稲垣はシーツを握りしめた。それを緩めるとハアハア苦しそうに全身で酸素を求める。僕もゆっくり彼女の足を下ろしその上で息を整えた。
「はあ、ああ……早かったな」
「そういえばまだ二回目なんだっけ。なんかいっぱいした気がする」
まだ完全に戻ってないのにかくっとくること言われて笑わされる。
「ふふ。いいな、女は。入れなくてもすぐいけるから」
「でも相手によっては全然いかないのよ」
僕が抜こうとすると彼女は手を回して制した。
「こういう普通のがいいのよね。普通のお部屋で普通に感じる、ていうのが」
「普通の部屋じゃないだろ。この部屋非常にやりにくいぞ」
「そう?」
と言ったあと彼女は吹き出した。
「あたしもこんなかわいいホテル初めてよ。いつも『やるしかない』ような暗くて狭い部屋ばっかりだったもの。ああいうのって興奮するけど冷めるのも早い の。それでどんどん激しいの求めて……。カップル喫茶でやってる時ふっと男の方見たらすごい顔で隣のカップルを見てるの。あたしさーっとひいちゃったわ。 こんな所でこんなヤツと何やってんだろう? って」
「何だ、お前、そんな所出入りしてるの? ケーベツ……」
「もお、行かないの?」
「行かないよ。オレ極めてノーマルだもん」
「あたしも最初はそうだったのよ。ふられてからおかしくなったの」
ねえわかってという表情で彼女は言った。その手が緩んだスキに僕は結合を外し、DVDのスィッチを切った。テーブルの下のジェルを取って彼女の胸に伸ばした。
「ああ、ん。感じるよぉ」
ひんやりしたジェルはすぐに液状になり、乳房をヌルヌル丸くマッサージして乳首をくりくり回した。
「あっあっ」
彼女は感じてる。眩しすぎるくらいの白い部屋。とろとろのジェルもまた女性向きの匂いがする。僕はラブマッサージというよりエステのバストケアをやってる つもりで柔らかい乳房を揉みほぐした。つんつん勃起した乳首を絞ると透明な液がぴゅっと跳んだ。触感も匂いもいかにも美味しそうで舌を出してちゅばちゅば 吸ってしまう。感度はすごくいい。
「ああ、キョースケ、またいきそう」
彼女は股を少し開いた。なんで入れたままにしとかなかったのよ? という声が聞こえてきそうだ。僕はジェルを下にも伸ばして指を上下させた。「ああ、あ あ」彼女はのけ反る。ぐちゅぐちゅじゅるじゅる液がはね、「入れて、入れて」と口をぱくつかせる。腫れてるみたいだけど快感の方が強くて抵抗できないんだ ろう。女の頂点は男の比じゃないんだ。
「ね、オレのこと好きって言って」
「え?」
不意に投げかけた言葉。彼女は苦しそうに口を開いた。
「何? こんなときに」
「言われたことないんだ」
「ウソでしょ」
「ホント」
「やだ、も……」
彼女は悶えながら僕にしがみついた。「ああ、ああ」という息が耳にかかる。僕は指を止めなかった。擦れて熱くなって痛みをともなう快楽は絶頂に近付き、「あ、あ、あ……」とガクガクきて彼女は静止した。
「ああ、好き……」
ハアハア吐息に隠れてそんな声が聞こえたような気がした。

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