恋する季節 17

 先に口を開いたのは稲垣の方だ。
「ああ、この時が一番すき。ゆっくり元の時間に戻っていく……。それを感じるの」
僕の背中をさすりながら囁いてその吐息は僕の耳元にかかる。ぞくっとする。何も言えない。
「あ、今動いた。ねえ、ずっとこうしてようよ」
稲垣は本当に優しい声で僕に言った。中では僕の分身が余震みたいなのを起こしてるらしい。本人の自覚はないのに。
「こうしてるとわかるの。その人がどんなえっちしてきたかって。すぐ抜いてあっち向いちゃう男なんて最低よ。あたしもうトンチンカンな男の精子なんて絶対 入れたくない。ねえ、おかしいと思わない? あんなにたくさんマニュアル本とかビデオとか氾濫してるのに、どうしてわかってない男ばっかりなのかしら。 あ、誤解しないでね。あたし誉めてるのよ。うっとりしてるの」
足を軽く曲げて僕の脇に添え、髪を撫でる。その甘い声、甘い仕草にますます僕は出る幕を失ってしまう。
「キョ−スケ? ねえ、どうしたの? やだ、寝ちゃった??」
稲垣は僕の顔を上げさせた。
「……吸いたい」
「え?」
僕の声はかすれてて全然通じてなかった。
「したい、ダメだ、オレ」
何言ってんのか自分でもわけ分かってなかった。それは、数少ない僕の性癖。めったにないけどヒートアップすると無償にやりたくなる。つまり、『よかった』のは明確な事実なわけだ。
「えっ? え……」
僕は驚いてる稲垣の体を再び探りはじめた。柔らかくてぷにぷにした白とピンクの裸。好きだ……。コレ、赤ん坊なんかがあんまり無垢でかわいくてつい噛み付 きたい衝動にかられる、っていうのと同じなんだろうか。僕はカクンと頭をもたげ、かぷっとうなじに噛み付くと思いきり吸い付いた。
「やだ! ダメよ、そこは、キョ−スケ……」
彼女が抵抗して体をよじらせた瞬間、結合が解け、もうひとつの僕がにゅるっと出てきた。それを覆っていた液体も、だ。
「ああ、ああ……」
稲垣は大きく口を開けてわめいた。あっという間にきつーい烙印がおされてしまったのだ。
「もう、キョ−スケったら……吸血鬼だったのね」
息切れしながら彼女は言った。僕は喋る間もなく、そのまま唇は背中になだれ、後ろから両手を回して彼女の乳房を揉んだ。
「あ、やだ、やめて」
どんな女も背中が鈍感なはずはなく、彼女は悪寒にも似た感覚に体を震わせ、必死に愛撫に耐えていた。それがまた僕をその気にさせる。乳首から指を離して下 腹へ、そして再び股間をまさぐる。彼女は「やめて、やめて」と叫びながらどんどん体をのけ反らせていった。再びきゅーとウエストのくびれにキスをする。そ して忍ばせていた指をぐっと突っ込んでGを押えた。
「あうっ」
彼女は悲鳴を上げ、大量のしぶきのようなものが上がった。よく聞く、くじらのブローみたいなやつだ。ビシュ−と勢いよく飛び出し、愛液とはまた違う気がする。
「う、いや……」
彼女は恥ずかしそうに股間を閉じようとした。が、僕の手が挟まれていてできない。僕はまたそれでぬるぬるやって、指を抜くと、今度はその股間に頭を滑り込ませた。とたんに彼女は叫んだ。
「イヤ、キョ−スケ、もうしないで!」
その声は当然ながらいつもの声じゃなくて、悲鳴と言うより発狂に近く聞こえた。恥ずかしさの余り体の底から出てくる声。彼女は腕を伸ばして僕の髪を掴んだ。
「やめて、やめて、お願いー」
泣叫んでるようにもとれる。僕はその手を力一杯握り返し、髪から引き離した。
「うぐっ、あう」
僕の舌のえじきになって、彼女は叫び続けた。僕の真上に彼女の乳房があり、ゆさゆさ揺れてる。びらびらはいい加減感じまくって膨れ上がってる。でも本能と は恐ろしいもので、わめきながらも彼女は自然に腰を動かして僕の舌に角度をつけようとする。僕はもう小刻みに愛撫なんてことはせずに、犬のペロペロみたい にそのひだと溝全体を舐めた。「あん、あん」と白いからだが踊る。時々その様子を下から見て興奮してまたべろべろ動かす。乳房が感じるって言ってもここと は比較にならないのだ……。だろ? このくらい舐めさせろよ。狂った彼女はとどめを求めた。僕は伸ばした舌を全部あてがって下から上にゆっくりなぞり先で クリを突いてそのままにした。ほんのちょっとして彼女の全身、僕が握りしめていた手にも力が入り、一生懸命何かをこらえてるかのように静止したと思うと、 ものすごい声で叫んだ。
「あーーーー……」
瞬間、愛液が流れ、僕はヴァギナから顔を離した。
「あう、あう」
彼女はピクピクして僕の支えがないとぴちぴちもがき苦しむ釣り上げられた魚のようだった。
「ああ、あー」
それからしばらく肩を上下させて自ら落ち着くのを待っていた。


「ああ、やめてって言ったのに……」
彼女はやっと声を出した。
「ん」
僕はゆっくり体を上げた。手を握ったまま。上に乗った彼女のからだと真向かいになる。何故か満足していた。一回しか射精してないのに、だ。なぜならば…… 白いからだには何ケ所か刻印がつけられている。もしこれを他の男が見るとして、何と思うだろう? フン。あーすっきりした。
「いっぱい出ちゃったわ。拭かなきゃ」
「すぐパリパリになるよ」
彼女は「もう……」という顔をする。僕はぬとぬとの唇を拭った。拭い去っても、情事の後の匂いは充満してる。
「ねえ、服取ってよ」
「ん」
僕は一旦彼女を下ろし、助手席に脱ぎ捨てられた服と下着を取ると渡した。彼女はささっとブラをつけようとした。前かがみになるが中々ホックがはまらないので手伝ってやる。ショーツを履くと稲垣は内股になって言った。
「やだ、もう、いきたくなっちゃった」
「何?」
「ト・イ・レ。もぉ〜キョ−スケが何回もするからよ。車出してよ」
僕は思わずクッと吹いた。
「ついでに出しとけばよかったのに」
「や、本気で言ってるの?」
「似たようなもんじゃないか」
「も〜〜〜何言ってるの。あーん、トイレに行きたいよ〜」
「その辺でして来いよ。誰もいないだろ」
「いやよ、ティッシュないし」
「あるよ」
僕がティッシュケースを指すと稲垣は口を尖らせ言った。
「ダメ! イヤ! 車出して!」
「世話のやけるヤツだなあ……我慢できんのか?」
「10分くらいなら。早くして!」
僕は呆れてひと息つく。
「はいはい、わかりました。どっか入りゃいいんだろ?」
さっきの余韻とやらはどこへやら。僕はそのワンピースのボタンを閉じてやると後部シートに稲垣を残したまま、運転席に戻った。

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