恋する季節

 世の中には恋人とも配偶者とも友人とも肉親とも言い表わされない異性関係が常に存在する。
 愛人、妾、情婦(夫)、ベッドメイト……。
 曖昧で卑下されがちな関係であるが、僕に言わせると卑下するどころかむしろ自然だ。
 なぜならば、リレーションの前に既に『セックス』は存在していたからである。

 −philosophy−

 そのゲームソフトは僕の大学時代の友人が送ってきたもので、いわゆる試作品だったらしい。ゲームソフト会社のデザイナーやってる彼が仕事の合間に趣味で作ったそれが同僚の目に止まり、新製品開発プロジェクトの1歩手前まで話が進んだのだそうだ。
 が、残念ながら商品化までは至らなかった。
 それがよほど残念だったのか彼はご無沙汰してるゼミ仲間全員へ中元がわりに送りつけてきた。
「なんじゃ、こりゃ?」
みんな首をかしげたに違いない。
 僕も最初はさほど興味なかった。僕は家では殆どパソコンしないので職場に放置していたのだ。それをたまたま同僚が見つけ、なんとなく一緒にやってみたところ……へえ、結構面白いじゃん、ということになったのだ。
 内容は非常に単純である。
 まあ要するに男性向けのソフトなのだが、アニメーションではなく実写版というところがポイントだ。インプットされてるのは実在する女性のデータのみ。プ レイヤーはそれを好きなように組み合わせることができ、その画像がまた美しいのである。何やら竪琴の音色とともに、どんな組み合わせであってもほんの数秒 で滑らかな3D風にしあがる。スリーサイズも好きにできるし、フリーにしては中々優秀なんじゃなかろうか?
 御丁寧にタイトルまで決まっていて、『 virtual wife stories(仮)』……新妻育成ゲームなのだ。

 オフィス街にそびえる50階建てのビル。メタリーさがこの不景気にかえってウラ寂し い、不況のあおりをモロに受けてる筈の建築関係。しかしながら何故か元気な我が社の社長室と重役室のあるフロアのすぐ下という恵まれた環境で僕は働いて る。社長付きの分析屋というたいそうな肩書きの名刺持ってるが、実の所は単なる雑用係だ。
「佐久間専務から頼まれてたフロッピーなんですけど」
「ああ」
「来週中にもらえますかって」
「OK」
何だか知らないけど役員秘書や設計技術部の奴らがやればいいような仕事まで回ってくる。何故? でも文句は言えない、それなりの手当てもらってるから。部 下もついているし、課まで新設されてる。サラリーマンは辛いな。だからせめて仕事の合間にほっと一息いれようと例の物が登場するのだ。女性社員がいなく なった隙にスタートボタンをクリックし、仮想空間にアプローチ。今日はそばに同期の四堂がいるので2人で一緒にコラージュ。ヤツは企画課に所属してるが、 しょっちゅうここにやってくる(いちお、セキュリティロックは免除してやってる)。
「なんかお前の好みって偏ってない?」
彼はいつも僕のヨメに対していちゃもんをつける。
「大手町系というか、銀座っていうか」
言われてみれば。大抵リストアップするのは髪はストレートのロング、ほっそり背高めの和風顔。でもそれって銀座なのかな??
「次は俺にやらせて」
それぞれ好みが違うもんだからすぐ飽きる。それがいいのか悪いのか……全員の心を掴む新妻は今の所現れない。でも選択範囲が幅広いから当分楽しめそうだ。 大抵のゲームはロリならロリ、おねえさん系なら水っぽいの揃いと両極端であるが、これは10代はもちろんのこと熟女の類までカバーしてるのだ。

愛しのタバコ吸い。この人また出てくるやも知れません。
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